イントロダクション
私の名前はポダルコ正雄です。みんなからはMP(エムピー)と呼ばれています。
祖母が認知症と診断され、彼女がつぶやくことを何気なく書き留めていたことをきっかけに、疑義的事実を調べ始めました。平凡で同じことの繰り返しの祖母との毎日の中で、その行為は自分にとってある種のセラピーとなり、祖母を見送った今でも事実を調べて書き留める行為を続けています。 こうして書き留めたメモから作品を作ることを考えたのは、ずっと後になってです。
ある時、ふと昔の日記を開いてみると、書いたことを忘れているものがほとんどでした。メモのこと自体を忘れているもの、内容は覚えているけれど書いた覚えがないもの、覚えているけれどその内容が微妙に違っているもの。自分を見失ったように感じました。私はこのことにとても興味をそそられ、そして、その得体の知れない感覚や感情を乗り越えて現実を実感するプロセスに魅せられたのです。 疑義的事実を収集して日記にまとめ、意図的に時間をあけて日記を読み返す。そして襲ってくるあの大いなる不信感と混乱を乗り越える。こうしたプロセスと思索の結果、“事実”とそれに付随するイメージを一緒に描くようになりました。 2021年2月にThe fiel-designers(TFD)のメンバーに選ばれました。TFDはクリエーターのグループで、毎月1人新しい人材が選ばれ、そのメンバーを増やし続けています。私は345番目のメンバーになりました。
そして、作品を作るだけでなくそれを見せることを考え始めました。このことは、私が自分を見つめ直し、作品を作るうえで特に気にも留めていなかった選択を理解する手助けとなりました。良い例が、なぜ2つの色しか使わないかについてです。特に理由はないと思っていましたが、2つの色(黒とオレンジ)は、正解と間違い、事実と虚実、真実と嘘などといったものを象徴していると説明できます。比喩的に、少しだけ習字の練習に似ていると思います。同時に使われるけれど、異なるカテゴリーに属するものの象徴です。 私は、自分の作品を“過去の日記や投函されなかった手紙を読んだ瞬間”になぞらえます。自筆の文章であることは分かるのに、書いたことは思い出せない。実体はあるのに、不確かで疑わしい。
私にとっては、紙にペンを落とすまでのプロセスや時間が私のクリエイティブの大部分を占めていて、疑心や混乱、現実感の喪失といった状態を乗り越えて、メモを現実だと信じることがアートです。そうして最終的に紙に残ったもの=作品は、ネガティブな意味ではなく、副産物であり、またその体験をよりクリアに完結させる手助けとなるものなのです。それなりに長い時間をかけて、普段は馴染みのない感情をたくさん経験して、確かなのは、それこそが僕にとってリアルという概念だということです。 |